大倭神社註進状には偽書疑惑がある。
大倭神社註進状を読み解くにあたり閲覧した『古語拾遺』に、疑惑を深めるであろう書き込みを発見した。
国立国会図書館デジタルコレクション 古語拾遺 :コマ番号42/52
向かって右のページ4行目「地主神営田之日」の左から始まる茶色い文字の書き込みだ。分かる範囲で書き起こした。
この『除蝗祭』の故事に因んで大田田根子の後裔が三歳祝に選ばれたのだから地主神を大国主と読めと、菅雄センセイは仰っているらしい。
新撰姓氏録は、歳祝は大田田根子の後裔であると記すが、三歳祝に選ばれた根拠が除蝗祭だとは書いてない。
この古語拾遺の本は、書誌情報によれば文化年間(1804~1818、家斉[11])に出版された。この書き込みは、こじつけてでも大国主に置き換えるようにゴリ押しした勢力が1804年以降に存在したことを示唆するものと云えよう。
黒船来航が1853年。明治元年が1868年。
この時代、尊王思想を掲げる志士が長州から多く輩出されている。
長州は襲津彦所縁の地である可能性がある。
詳しくは『別記事:襲津彦についての仮説』に書いた。
日本書紀ではあまり良いふうには書かれてない葛城襲津彦を、尊王思想を掲げる長州志士は許容できなかったのではないか?
彼らには古代史を歪める動機があり、維新後には政治権力を手に入れた。
偽書と疑われる理由が、大倭神社註進状には存在する。
拙いながら大倭神社註進状を読み、注意を向けるべきと思う段落に私見を添えて下に掲載する。該当する段落は7つ。
蓋(けだし)の後には著者の考えが記される。
つまり、大倭神社は出雲杵築大社の別宮であると、大倭神社註進状の著者が考えた。著者の個人的な意見にすぎない。
この著者は、倭大国魂が大己貴の荒魂和魂であると、誰かから聞いたそうだ。あくまで伝聞情報である。
日本書紀家牒は、日本書紀とは別物と考えるほかないだろう。
実在したとは思わないが。
大己貴が夢に出たから倭大国魂を天照に並べて祀ったというエピソードを綴った書物が実在したのなら、先の段落で、倭大国魂神が大己貴命の荒魂和魂であると『断言』できたはず。
冒頭に「伝聞」と記すのは、裏付けになる文献が存在しないからだろう。
「云々」より前部分のエピソードは、日付は異なる(垂仁紀は二十五年三月)が、日本書紀の記述に適う。しかし大地主神についての一文は、日本書紀には存在しない。
地主神には猿田彦などが挙げられる。
倭大国魂が治める大地官と地主神を同一視することが如何に乱暴な解釈か、ご理解いただきたい。
「伝聞」として記されるが、「以廣矛爲杖令撥」から「將隱去矣 言訖」までは日本書紀の国譲り本伝と類似、続きから「而 長隱」までは国譲り一書第二に類似する記述がある。
伝え聞いたと思われる部分は二か所。
「八千矛神者 大己貴命」と「此矛 亦上古 在天皇大殿之内 其藏齋爲八千矛神之神躰」だろう。
神代上第八段(八岐大蛇)一書第六に、大国主の別名が列記され、そのなかに八千戈と大己貴が含まれている。なので乱暴に区分すれば、八千戈=大己貴と言えなくもない。気に入らないが、間違いと言いきれない部分だ。
しかし乱暴な解釈であることを強調したい。あえて八千戈を祭神に掲げる神社が多く存在する現状を無視している。
大己貴から授かった廣矛を八千矛の神体として皇居に安置した件については、日本書紀を読む限りでは、裏付けになる記述は無い。
八千戈は、日本書紀では大国主の別名の一つとして記されるのみだ。
類似のエピソードが古語拾遺に収録されている(上述の除蝗祭)。
大和神社はホームページに 狭井神社、檜原神社は共に明治10年以降大神神社社の摂社となりましたが、その以前は大和神社と大いに関係があり狭井神社は別社であったようです。(『日本の神々 -神社と聖地- 4 大和』)
と記載している(2021年10月時点)。
三輪明神 大神神社 境内マップ 【17】狭井神社 (さいじんじゃ)
文脈的に、大国魂は大己貴の荒魂であると読める点に留意してもらいたい。
「命大倭直祖長尾市宿禰 令祭矣」までは垂仁紀に類似の記述がある。
大市長岡岬に比定される場所は今も特定されてない。
「伝聞」としているが、日本書紀の神代上第八段(八岐大蛇)一書第六に類似する。ただし日本書紀は和魂荒魂は書かず、幸魂奇魂のみ書いている。
大物主は大己貴の荒魂であると、大倭神社註進状の著者は誰かから聞いた。
先述の挟井神社のところに、大国魂は大己貴の荒魂であると読める記述があることを思いだしてほしい。大倭神社註進状らしい乱暴さで解釈するなら、大国魂=大物主である。
これも日本書紀の神代上第八段(八岐大蛇)一書第六に類似の記述がある。
挟井神社については上述。
総括: 冒頭に「伝聞」と記された段落は、文献の裏付けがある逸話に出所不明の情報を少量混ぜ込んでいる。きつい表現をするが、これは詐欺の手口だ。